完全なる計画3
たった数秒の出来事がとても長く感じられた。
気絶をした彼を見てスタンガンのスイッチを切る。
ぱりぱりと電流の余韻を残して黄色い火花は消えた。
そっと彼の髪を掻き上げる。
綺麗だ。
もう、夢を見なくていい。
彼は私の物なのだ。
正反対の位置から手を伸ばしに伸ばしてやっと手に入れた。
放さないし、誰にも渡さない。
私だけの物なのだ。
ぐったりとした彼を抱き上げ路地裏から出た。
満月が眩しい。
時計を見たら午前2時だった。
ふいに溜息が出る。
私自身もこれで終わったのだと思った。
彼を手に入れる事が自分の願いだったのではないかと。
しかし全て嘘だった。
全ては嘘の上に成り立った現実。
偽りの上に成り立った事実。
そう全ては完璧だった。
バーを出たタイミングも、路地裏への道にコースを変えた時間も。
ゴム製の手袋もスタンガンも
自分自身への演技も
全て完璧だった。
酒に呑まれなかったのも、自分が彼を欲する気分になるのも全て計算済みだった。
彼を路地裏に呼んだ時間も、彼があの道を選ぶ事も全て私の頭の中の計画に組み込まれていた。
偶然は私が自ら作り出した必然だった。
私は彼に焦がれていたのではない。
彼を殺したかったのだ。
自分の信念を汚した彼を許せない。
自分の心を理解しようとしない彼を許せない。
自分を人間として見ない彼が許せない。
放っておけばよかった。
だが殺したかった。
安楽死など、間接的ではなく自分自身の手で殺したかった。
だから彼に焦がれているのだと自分自身に暗示をかけた。
自分自身に嘘を吐いた。
自分が彼を追いかけるように。
彼に執着するように。
彼を殺すように。
11月下旬の早朝。
私は彼を殺した。
全てが思い通りだった。
全てが嘘だった。
全てが事実だった。
それは私の完全なる殺人計画だった。
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05.10.23