完全なる計画2







何も警戒していなかったであろう彼は、その振動で大きく揺れた。
私はそのまま彼を路地裏に引きずり込み地面に投げ飛ばす。


「ウ…っ!ゲホッ…!!」


地面に丸く蹲る彼はとても小さく脆いものに見えた。
ああ、何て美しい存在なんだ。
欲しい。
欲しい。

君が欲しい。


私は彼の胸倉を掴み、彼を立たせた。


「こんばんは、ブラックジャック先生」
「…っ!!」


そして優しく、優しく話しかけた。
本当はこんな傷つけたいのではないのだと。
貴方にこれでもかと焦がれているのだと。


「キリ、コ、、、っ!!!」


彼はやはり私を睨み付けた。

ああ。これだ。
この冷たい瞳こそ、火照った体を冷ますのに丁度良い。
でも、そんな事どうでもいい。
私は、彼を手に入れたくなってしまったから。

胸倉を掴んでいた手を勢いよく放し、壁に叩き付ける。
そして素早く両手で首を締め、彼を壁伝いに引きずり上げた。


「ア…あ、ガっ…!」
「ねえ、先生。また私の患者を横取りしましたね。いや、良いんですよ。命が助かるに越した事ァない」


上ずった口調で話した。
彼を支配する事が楽しかった。
私の両手を引き剥がそうと爪を立てて力を込める彼の手は、繊細で、細くて、白くて、綺麗だった。
患者を取られた事を理由に突っかかって来たと思われていい。
自分の本当の心の内をまだ見せはしない。

でももう大丈夫。
心配はいらない。
ぎりぎりと締め上げられる首も、必死で酸素を取り入れようとするあまりに口の端から伝い落ちる唾液も。
彼が。彼自身が。彼の全てが。


これから自分の物になるのだ。


数十秒締め上げてから地面にどさりと下ろした。
力なくへたれ込んだ彼は、肩で大きく呼吸を繰り返す。
下手に抵抗こそしないが瞳は上目遣いに私を睨み上げていた。

ぞくりと背中に冷や汗が伝う。
思わず顔がにやけた。
優越感と支配感が入り混じってなんともいえない快感が体の中を駆け巡る。
いかれているのも承知の上だ。
だから、こんな私を許してよ。



私が手にした物を見るなり、睨み上げていた彼の瞳が急に恐怖色に染まった。


「おまっ、、、それはっ、、、、」


彼の体ががくがくと震えていくのが分かった。
黒くて四角い、丁度私の手にぴったりと合うサイズのスタンガン。


「貴方はこれから私の物になるんですよ」


これでもかというくらい飛び切りの笑顔で彼に笑いかける。
そして顔を真っ青にして逃げようとする彼をスタンガンを持った左手全体で地面に押さえつけ、
右手の人指し指で軽く顎を上に傾けた。


「メスなんか使えませんよねぇ…もし私がメスに向かってスイッチを入れたら大変な事になりますものね?」
「やめ、ろ、、、、」


ああ。この快感。
無抵抗の彼を好き放題に傷つける事が出来る感動。
素晴らしい。
君を手に入れれるなら何だってすると決めたんだ。


「貴方は私の物なんですよ」


彼にそう言い聞かせながら
スタンガンのスイッチを入れた。


「っア、ああァアアッ…!!!」


彼の体に電流が流れる。
びくびくと体を痙攣させながら彼は、叫んだ。
闇に包まれた路地裏に彼の声はよく響いた。

だけど残念だ。
残念極まる。
此所は廃墟となった路地。
誰も来ない。


「やめ、ろ!!こ、の…人殺し!!!」


ああ、これだ。
いかれた私の頭を正常に戻す声。
冷たく突き刺さる批難の数々。
実に、心地が良い。

しかしその心地よい感覚とは裏腹に苛立つ心はついに行き場を無くした。
それはスタンガンの出力を強くするという行動となって体の外に弾け出た。
彼の瞳が一層見開かれた。


「ひぐっ、ゥ、、、ァ!アア、ああア…!!」
「ええ、人殺しですよ、、、」
「イヤだ、、、キリ、コ…!やめ、ろ……」


地面に這いつくばって静止を求める彼。
私はスタンガンを当てたまま立ち膝をついて彼を見下ろした。
ああ、なんと哀れな黒猫。
実に、美しい。
助けを求める彼の声は、酷く甘美に私の心に響いた。

もっと私を求める声が聞きたい。
貴方の声で。
その悲痛な叫びで。
私の名前を呼んで、そして縋って欲しい。

そんな願いから出力最強になったスタンガン。




「ぐ、、、ァ、、、、」









そして彼は動かなくなった。





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05.10.22